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料理の内側



医師とは、体の仕組みや人間の働きを理解する職業であり、医者や医療従事者による健康や様々な病気について書かれた文章を目にする機会がしばしばある。しかし、そうした医師のひとり、ノイ先生ことオーライン・ウィンタチャイ女医は、ひとたび終業時間になれば白衣を脱げば、アプリWongnaiの人気レビュアーに変身するのだ。「今日何食べる?」と迷ったら使う、バイブルとして支持されているあの人気アプリだ。

Balanceは、ノイ先生のリクエストのとあるレストランで待ち合わせをした。ここは先生が既にレビューを書いたことのある店でもある。ここからは、「グルメレビュアー」について7つの観点からお話しよう。


お医者さんがなぜグルメレビュアーに?


そもそも学生時代に、同じ学生番号の後輩をご馳走するという大学の伝統があり、そのためのお店を探していたときに、Wongnaiのウェブサイトに出会ったんです。2011年から2012年当時、Wongnaiがサイトを立ち上げたばかりの頃で、料理についてのレビューを載せている人がいるのを目にしたとき、自分自身も食べるのが好き、料理の写真を撮るのが好き、美味しいお店をたくさん知っているからやってみようかな、と思い立って始めたんです。その後あっという間に7年が経ち、気付けば60,000人のレビューフォロワーが付いていました。


グルメレビュアーがタイの食において影響力を与える人になったことをどう思う?


良く言えば、余り知られていない小さなお店の売上の貢献ができたり、大きなお店だから予算的に行けないわ、とかきっと高いに違いない、と思っていたお店が、実はそんなことはない、といったことを伝えられたことですね。レビューすると、売り手にも買い手にもメリットになります。しかし一方で、悪い点もあります。買い手にしてみれば、このレビューにある店が本当に良いかどうかを知る術は無いということです。レビュアーについてある一定のレベルを知っていなければ、載せられた情報は売上を良くするために人を騙したものだった、という結果に陥り兼ねないからです。


実際に、5つ星欲しさにスポンサーになりたい、と申し出てくるお店もありました。しかし私は、お金をもらってレビューを書くことはしないと決めていました。その方が、真実に基づいて自由に書けるからです。書いて欲しいというお店のリクエストに応じることもありましたが、予めそのお店には、真実を書きますので、ということを伝えていました。


レビューを書くときは、味、見た目、食べたいと思わされるものであるかどうか、これらの観点から判断しています。大きいお店の場合は、サービスを重視しています。いくら料理がおいしくても、サービスが悪い場合は、星の数は少なくします。


レビューによって最も多くの人がフォローして食べに行ったことについて話してください。

あるお店で、もともと臨時的に短期間のみ開店させるというところがあったんです。価格も高くて、一般的になかなか食べてみようという気になれないほどでした。ところが実際は、料理を演出するためのストーリーがあったんです。例えば、今日余り目にすることのない自然のものを見せたり、それぞれの料理のプレゼンテーションがとても美しく、料理一つ一つが持つストーリーに対する対価としては、とてもリーズナブルなものだと思いました。その店では、素材にとてもこだわりを持っていて、輸入したものもタイ国内で調達したものもどちらもあります。例えば、有名な川の名前を付けたカクテルがあったとすると、その川が流れている地域で取れる素材のみを使ったもので作られるんです。そうするとその料理に興味深いストーリーが生まれます。レビューを読んで興味を持った人から非常にたくさんの質問を受けました。


これまでのレビューの経験から、タイの食文化について聞かせてください。


率直に言って、タイ人は流行りに乗って食べるのが好きですね。本来は人それぞれ食べ物の嗜好は異なるはずで、それぞれ違う料理を食べたいなと思うはずなのに、若い人たちは流行を気にしますね。タピオカミルクティーや塩卵ラヴァーなど、実際はそれほど変わった料理でもないのに、ひとたび流行るとこぞって食べに行きますよね。

医師という立場からは、食のトレンドはどこまで行ったと思いますか?


私は、危機的な状況だと思います。巷で売られている料理は炭水化物がほとんどです。クリーンフードというものも出始めていますが、まだまだ少ないです。危機的だと言うものは、甘いものです。年齢が低いのに高血圧や糖尿病になる若者が増えてきているように感じます。医師の立場から、高脂血症や高血圧、肥満と言った病気の発症年齢が年々下がってきているとも言えます。


そして、クリーンフードは本当にクリーンか?という問いに対して、私自身、疑いを持つことがあります。実際に食べてみると、宣伝で謳われているクリーンさより、塩分も辛味も濃く感じられました。ですから本当に信頼できる店かのものを選んで食べるようにしています。

10年後、食についてのコンテンツはどうなっていると想像でしますか?


健康志向がブームになっていると思います。10年の間に若年層から病気の人は増えるでしょう。タピオカミルクティーは無くなっているかもしれません。しかし、食のトレンドはファッションと同じでぐるぐる回っているものです。最終的に、ナンプリックゆで野菜添えという料理がハイエンドメニューになっているかもしれませんよ。

今日ご自身についてレビューをするとしたら、先生の食事についてどんなことを私たちに話したいですか?


私たちの人生は正弦波のようなもの、常に上下し続けていて、止まることがない。私自身、食事制限をしている時には、全くレビュー投稿をしません。レビューするには不完全な状態だと思うからです。逆にレビューをするときは、思い切り食べます。仕事のストレスもあるかもしれません。実際に、医師でグルメレビュアーになる人が最近増えているんですよ…とはいえ、健康は大切にしましょうね。



1時間にわたり、ノイ先生をインタビューしたが、医師として病気を治すことと同じくらい、フードレビュアーに情熱を持っていることが感じられた。というのも、先生は我々に、「今の消費者は選択しがたくさんある。レビュアーが料理について興味を持つように書いたとしても、最後にその店が生き残れるかどうかは、実際の料理そのものにかかっている。」ということを繰り返し話していた。新規のレビュアーに対して、この素材はどこのものが一番良いのか、料理の作り方の基礎知識、味についての知識、嗅覚や味の区別等、レビュアーになるための知識はとても重要だということを強調していた。



 

ライター

ナタポーン・ピンペット

クリエイティブ/話し手

 

インタビューした人

オーライン・ウィンタチャイ女医

ワチラ病院医学部救急医療学科家庭医

Wongnaiアプリ8年連続エリートメンバー

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