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忘れられた朝食


「起床して顔を洗い、歯を磨く。朝食を食べ、そして身支度を整える。両親に行ってきます、とあいさつして学校へ急ぐ…遅刻だ~!」


子どもの頃、よく歌っていた歌があるのを思い出した。学校で決められていた歌だったのか、それとも友達の間で流行っていた歌だったのか、定かではないが、この歌は子どもたちの日常をうたったもので、学校に遅刻しないように行かなければいけないとはいえ、毎日の朝ごはんはとても重要なもので、生活のスピードも現代のそれと比べても緩やかなものだった、ということを思い出させてくれる。今となっては日々に忙殺され、とコーヒー一杯で済ませてしまっているが、本来の朝ごはんの香りを思い出させてくれる。



そう、今回は「日常生活の朝のエネルギーになるもの」について話したいと思うが、残念ながら忙しい毎日、我々は朝ごはんを軽んじてしまっているのが現状だ。かつては生活科の事業の中でも栄養学について学び、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5つの栄養素から成る食事を摂るべきでああり、中でも朝ごはんは朝起きてからお昼までの栄養を作るものとして必要だとと教えられていた。しかし、現代では、朝起きてから忙しく支度をして、出かけてから渋滞する道中、車上で多くの時間を費やし、屋台の朝ごはんを買う。とにかく仕事場に出来る限り早くたどり着くようにする。車上で買った朝ご飯を食べるか、それでも間に合わないようなら、オフィスに着いてからのコーヒー一杯だけとなる。なぜ日常の時間が生活の質よりも重要とされるのか。自分でもその答えが知りたいと思うようになった。


そこで、様々な仕事をする人が多く集まる3か所に出向いて、朝ごはんに何を食べているのか観察してみることにした。


1ポイント目:仕事場に行く前に朝ごはんを買い求めるオフィスの人間が多く集まる駅下。ここは屋台のワゴンに担ぎ籠がひしめき合っている。オムレツ載せご飯、豚肉串焼きともち米、サンドウィッチ、タイ式コーヒー等多種多様な料理がある。欲しいものを伝えると、売り子はすぐさま袋に詰めてくれ、支払をして受け取り、先を急ぐ。中には道から反れたところでコーヒー片手にサンドイッチを食べてる。急いで食べて急いで行く。ほんの少しでも迷いがあれば、大渋滞に巻き込まれ、仕事に遅刻してしまうからだ。仕事に穴を開け、全てがくるってしまう。その他にも質の良い食事を食べ損ね、良い健康を手に入れ損ねてしまった、ということも大きな過ちだと思うのだ。


2ポイント目:病院前。健康や栄養に関連し患者のケアをするというこの場所には相当の期待をしていた。病院名は伏せて置こう。中に入るとすぐ、朝6時からオープンしているキャンティーンがあった。保存料や化学調味料など不使用の安全であろう食事が摂れる場所である。しかし実際は…ここには医師が何人か食事に来ているだけであった。その後病院の塀の外に出て見ると、そこはなんと!豚肉の串焼き、揚げミートボール、タイ式コーヒー、もち米などの屋台が並んでいる。看護師や従業員たちが続々と買いに来ている。恐らく病院で働く人たちが最も利用する食事が屋台なのだろう。


3ポイント目:大学の学食。大学生と言えばファーストフード、ファーストライフ、というイメージがあるので、病院の時ほど期待はしないようにしていた。全てがトレンドに関係するものだろう、と。しかし、実際に入って行ってみると、ここは新しい料理が並んでいた。食堂として、様々な料理を選ぶことが出来る。スープ粥、お粥、惣菜載せご飯、クイティアオ、そして今はやりのタピオカパールミルクティーに色とりどりのジュースが並んでいる。しかし、ここは、急がなくて良い、時間があり、きちんと座って気持ちも落ち着いて食べられているように見える。



3箇所を回って個人的に感じたことは、質の良い朝ごはんを摂るには、全てここに関わっている人たちの協力を以て成り立たせなければならないということだ。つまり、売り子は、質の良い材料を用いて安全な食事を作り、顧客層によってメニューを作り分け、病院の看護師用には栄養学的に満たされた食事を作る。顧客も、自分の体を大切にし、自分の体に入る食事の質を選んで買う。両者が協力し、競合し合い、質のある朝ごはんを摂るようにする。マーケティング的メカニズムとして、原材料供給者からも、化学物質や抗生物質を使わない質の良い材料を供給してもらうよう協力を仰ぐ。とにかく体を可哀そうだと思うことから始めよう。朝早く起きた体には、良いものを入れよう。材料の時点で化学物質が含まれていたり、道端の埃が混じるようなものではなくて、だ。このコラムが、朝ごはんを見直すきっかけになればと思う。今自分が何を食べているのか認識しているのか。忘れられない、子どものころ家で食べた、簡単なスープと目玉焼きの朝ごはんも、それこそが本当の意味での朝ごはんであるのだ。



 

ライター

ナタポーン・ピンペット

クリエイティブ/話し手



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