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サーマートファーマー(有能な農家)とスマートファーマー(賢い農家)



30年前に遡り、自分が農家の家に生まれなかったなら、畑に囲まれた環境で暮らしてこなかったなら、朝起きて農家の日常を見ることが当たり前にならなかったなら、米を作り、野菜を育て、鶏を飼い、果物の木を植え、それらを収穫し、食事を作り、病を治癒するなどと、想像できただろうか?


私ヌンも田舎で生まれ育ち、農家の日常に馴染みは合ったものの、都会の生活に身を置き、社会のトレンドをフォローして利便性や快適性を手に入れるべく向上心を以て努力してきた。おかしなことに、便利で快適になればなるほど、代わりに痛みを伴うようになったのだ。ある日、自分の成長を振り返ってみて、答えを出した。その答えとは… 今の人生で、自分の安全な食べ物を育てる場所が欲しい、ということだった。なぜなら、安全な食べ物とは、人生の質にとって重要であるからだ。そこでバンコクに別れを告げ、自分の田舎へと戻り、ワクワクするチャレンジングな生活を始めた。4ライの土地を活用し、ラーマ9世王のお考えに則った、統合的農業に力を入れ、自らの手でやりたい農業をしようと考えた。人々にとって有益なことだと考えたからだ。



4ライからそれぞれの4つのストーリーが生まれた。1つ目のストーリーは、果物の栽培。先祖から伝わる在来種のバナナの栽培に力を入れた。各種マンゴーに香り高いジュースを持つココナッツ。2つ目のストーリーは、野菜の栽培。家庭菜園として、食べる全ての種類を栽培し、栽培した全ての種類を食べる。栽培しては種を採取していくというもの。3つ目のストーリーは、鶏を飼育し、卵を食べ、繁殖させ、糞から堆肥を作るというもの。最後のストーリーは、四季折々の花や果物に囲まれた住まいの話。そして、いつか、自分の魚の養殖池と田んぼを持ちたい、という最大の夢がある。


愛すべきスマートフォン、経験のある農家も新規の農家もスマートフォンを持たない者はいない。私ヌンも、自営農業について、どこかのコミュニティーの細道を歩き回るように、大部分をスマートフォンを通じて学んでいる。そしてつに、“Heart Core Organic”という、同じ考え方を持つ友達に出会ったのだ。有機農業に興味を持つ、年齢層も職業もバラバラな人々が集まり、有機農業や安全な食べ物について、話をし、意見交換をしながら、取り組んでいる。



ヌンは、個人的には、畑の中で働くのは、森の中に冒険に行くのと何ら変わりないと思っている。常にワクワクするようなことが待ち受けているのだ。静けさの中に、大小数百も生き物が動いているのが、見て取れる。昼間は畑の中の現実と共に、最初の頃は何も分からず格闘する毎日で、夜になると、スマートフォンやオンライン上の友達に質問をしては知識を深める。こんなことを5年も続けていると、農業が出来なかったところからスマートファーマーになったというわけだ。栽培するだけでなく、加工して利用することもできるようになったのだ。とはいえ、学びに終わりはない、ということは覚えておきたい。


自分を振り返って見ると、普通の女性から「スマートファーマー」へと変身し、堆肥作りから野菜の栽培、鶏の飼育、果物の加工、料理、ナチュラルシャンプー、石鹸作りまでできるようになった。はっきり自覚できるほど健康的になり、できることを繰り返すうちに熟練となって、有機農業で得た素材から、干しバナナやナチュラルシャンプー、豆腐等の商品作り、自分で食べる量を超えた季節の野菜、十分過ぎる種の採取等まですることができるなんて、自分の人生、本当に値打ちがあるなと感じる。これらのものは、現代人が求めるものなのだ。自分や消費者が得られる安全性だけでなく、有機農業で栽培をすると、土や環境を保護しながら農業をすることになるため、地球の環境を良好な状態にするという、同じ考え方を持った自分や友達による期待も込められているのだ。化学物質を使って生育を急かし、自然を削り取るようなやり方はせず、自然のころ合いを見計らった収穫を行う。化学物質を使ったやり方では、自分たちや自分たちの土地を傷めつけるだけでなく、自分たちが育てたものの味や質に影響を及ぼし、価値を下げることにもなりかねないからだ。



また、具体的に梱包材によるゴミの削減にも力を入れている。商品をオンラインで販売しているが、目的に合った製品の梱包の仕方について、顧客に問い合わせを試みている。我々をよく分かってくれる顧客の方は、外観ではなく品質で我々の商品を買ってくれており、全ての商品をひとつの袋にまとめて入れて納品しても良い、という、素晴らしい結果も得られているのだ。お得意様の中には、干しバナナの予約をしてから、予め箱を我々に送ってくれて、その中に製品を入れて送り返す、という取り組みをしたり、ナチュラルシャンプーの利用者は、殻になったシャンプー容器を送って来て、同じ容器に詰めたシャンプーを購入したりしている。我々は一体となって、全てのものを使えるところまで使い、使えなくなったと判断したところで新しいものと取り換える…ここまで細かいことが認められていることが信じられないとおもうこともあるほどだ。こうしたことをするグループは少ないが、これに賛同する人が出てきていることも真実だ。我々は、スマートなファーマーになっていると感じる。


タイの各地で有機農業を行う有能な小さなファーマーが生まれてきたら嬉しいことだ。自分の田舎に戻り、スマートフォンなどのコミュニケーションツールを使いながら土地を耕すということを、ゆっくりと着実にしていけば、安全な食べ物を作るだけでなく、地球の空気を良く保ち、温暖化に歯止めをかけ、どんな職業の人にも、どんな生き物にとっても、この地球を、衰退した状態ではなく、次の世代に手渡して行ける。この道を歩む全ての人を応援したい。




 


ライター

ナタカナーン・プリ―チャーボリスットクン(ヌン)

農家

安全食品生産者

ナチュラルシャンプー・石鹸生産者

自給自足分野講師

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