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オルタナティブ&サバイバルマーケット(前編)



自分で何か料理して食べようとするなら、「新鮮なもの」をどこに買い求めに行くだろうか?長期休みに入ると朝早起きをして、母と一緒に籠を持って市場に出かけた子どもの頃を思い出す。母の後をついて歩き、おかずの入った籠を持つのを手伝う。祖母から受け継いだものだ。品物が所狭しと並べられ、買い物客で賑わい、県内外や近隣の町から物を売りにやってきた行商人たちで溢れかえる。身を乗り出して左右をきょろきょろ見渡しては、どんな良いものがあるのかと品物を物色する。野菜、果物、豚肉、アヒル肉、鶏肉、魚、魚介類、袋詰めされた惣菜、タイ菓子、タイと中国文化の香りがする料理や、衣料品、靴、なんと宝くじまでなんでもござれだ。出入口付近には、目の不自由な人が生活費の足しに演奏する音楽や歌声が聞こえてくる。このように賑やかで活気ある雰囲気は、毎日朝4時から11時の市場が終わるまで続く。子どもがついやってしまう、左手に持った籠をぶんぶん振り回しては、周りの人にぶつけないかだけを注意しながら、右手は母の腕に絡ませてはぐれないようにしていた。


長期休みは何年もこうして母の後をついて市場に行き、母がどの店が好きなのかが分かるようになった。母は、馴染みの顔の行商人に声をかけ、商品を手に取ると、見たことのないものについては、「どうやって食べるの?」と尋ね、気に入ったものがあれば、行商人に声をかけて自分の籠へと入れ、代金を支払う。


市場での用事を済ませると、市場に買い物に入る時に注文しておいた、熱々のカノム・クロックを受け取りに行く。母は、カノム・クロックが出来上がる時間から逆算して、買い物をちょうど良い時間に終わらせていた。母が運転している間に、自分のような子どもが出来ることと言えば、カノム・クロックの入れ物の蓋を開けて、少し冷まし、タイ菓子の特徴である、ココナッツミルク、粉、砂糖の甘みとコクに舌鼓を打った。香り良く味も良いものは、熱々のときにバナナの葉の上に置かれた、容器の奥の方にあるもので、蓋に近いところにあるものは、カリカリ感がやや多め感じられる…生鮮市場に出かけていた頃の記憶は、思い出の中で鮮明に残っている。


小学校から高校まで、長期休みのたびに母と市場へ出かけていたので、行商人の中には、母に挨拶をするだけでなく、私が何年生になったのかとよく聞いてくれる人もいたほどだった。それから成長し、仕事をするようになって、出かける先は、市場から離れていった。生鮮市場は、日常生活の中での重要な行先ではなくなり、家で食べるよりもレストランで食べることを選ぶようになった。多くのレストランがあちこちに広がり、朝から昼、夜から深夜まで料理を提供してくれる。


そしてバンコクで何年も暮らした後に…田舎に戻ることにした。人生のその時の環境によって、自分で自分を頼らなければならなくなった。人間が生きるために必要な作物を育てる技術や、食べていくための道を、私は持っていなかった。そこで、自分にもそうした技術を身につけるべく勉強を始めた。ハイドロポニックの野菜を買って何年も食べていたところから、家の畑で有機農業をやろうと決心したが、それは間違った道ではなかったと思っている。畑で獲れた野菜のおかげで、料理が楽しくなり、家事についていろいろ考えたり、野菜炒めや目玉焼きよりももっと難しいメニューを作ってみたいと思うようになったりした。自分でも豚や魚を飼育することはできる。でもそれらを屠畜して料理にしたりすることまではできないし、我々が食べる全ての種類の野菜を育てられないので、生鮮市場は、人生において再び意味を持つようになった。



大人になってからは、市場へはお金と籠を持って行くだけでなく、野菜の栽培や養鶏の経験を持って出かけて行った。買う前に、「自分のところで獲れたものか」「どこで育てたのか」「どうやって育てたのか」等を行商人に聞いては、「県の大型市場からのものだ」という答えを得ると、それらの商品を元の場所に置いて、(すぐさま)にこやかにありがとう、とお礼を言う。肉については、タイの鶏や田んぼで捕まえられた雷魚以外には食べる気がしなかった。…というのも、4~5年をかけて食について学んでいくうちに、食物の出所について、「理解」するようになっていたからだ。カイラン菜は、どこで獲れたものであっても、同じ姿かたちをしている。しかし、食べた後に受ける影響が異なるということを知っている人は少ない。カイラン菜は、何度も繰り返し栽培する中で農薬を含む10の野菜のうちトップを誇ることで知られている。安全な食事を摂り続けるうちに、「自分の体」が、どんなカイラン菜を食べるべきなのか、どんなカイラン菜は買うべきではないのか等言えるようになってきた。カイラン菜のみならず、様々な種類の青果物や肉類に、農薬が混じっている。抜き打ちで購入後に調べることで、素材の形や臭いなどから、見分けることができるようになった。自分でも臭いについて調べてみたいという人にとって、簡単な方法がある。信頼のおける店舗からオーガニック野菜を購入し、一般的な生鮮市場から全者と同じ種類の野菜を購入する。その後同じ日に同時に清潔なガラスの瓶にそれぞれ別々に入れ、蓋をきっちり閉める。3~14日経ってからの2本の瓶の野菜の変化を観察する。物理的な変化や臭いの変化を見ると、かつて行っていた生鮮市場が我々の求める生活の質のための食物源として万能ではないことが分かる。とはいえ、まだ行き止まりに行きついたわけではない。現代では、栽培過程で除草剤や殺虫剤といった農薬、市場で腐りにくくするために隠れて使われているフォルマリン、工場で製造される調味料に含まれる合成物質各種の混じった食物を食べるなど、多くの人が農薬の混じった食物の影響により、癌やアレルギー等の病に侵されたり、薬を呑んでも良くならなかったり回復しにくくなったりしている。その結果、安全な食物を求める消費者グループが増えてきた。最も近くて便利なのが、自分自身で野菜を栽培することだ。収穫して余った分は、売ったり誰かとシェアしたりする。しかしながら、毎日の毎食の消費に十分な食物栄養を摂れるだけの多様性は持てない。幸運なことに、新世代の農家で有機農業をやろうと言う若者が出てきて、消費者が安全で安心できる商品を選ぶことができるようにするための「オルタナティブ・マーケット」を開催している。この市場は、「適材適所」、という名前がついている。



 

ライター

ナタカナーン・プリ―チャーボリスットクン(ヌン)

農家

安全食品生産者

ナチュラルシャンプー・石鹸生産者

自給自足分野講師



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