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私の日本の家の素材



外国暮らしというのは、さほど難しくもなければ、かと言って簡単なものでもない。しかし、その時の状況に自分を合わせることができたなら、地球のどこにいたとしても幸せで安定した暮らしをすることが出来ると信じている。時には自分の生まれ育った国と同じように幸せだとは言えないこともあるだろうが、周りの普通の人々がその場所で生きていけているなら、私も同じように幸せになれるに違いない、と思うのだ。私が日本で主婦として生きていかなければならなくなり、遭遇する様々なものに対して適応していかなければならなくなったが、その他に、食べることは私にとってとても重要なことであった。

OLとして働いていたころは、道端で売られているプラスチック袋に詰められたお惣菜に慣れ親しんだもので、オムレツでさえまともに作れないというほど、自分で料理を作ることはなかった。そう、これは外国暮らしをしなければならなくなった時に、国家レベルとも言えるほど大問題として私にのしかかった。


私の料理講習会は、オンラインでの料理講座視聴から始まった。様々な料理の先生レベルの方々の映像は、私のように遠く離れたところにいる者にとって、知識として大きな助けとなった。私の料理の腕前も少しずつ上がり、同様に、日本でタイ料理の素材を探すことも上手くなっていった。



8年ほど前に遡ること、私が日本に住み始めたばかりの頃は、何を見ても高すぎると驚いていた。特にタイの青果類は、高すぎてほとんど手が出せないというレベルだった。一束20バーツで売られているパクチーが、日本では100バーツ相当で売られている。カルチャーショックがさらに大きなショックとなった。高い価格の中でもさらに高いと感じさせられるものだった。


そのころの私は、地域のものから素材を選ぼうと努力していた。例えばみそ汁やカレーライス、焼きそばや豚生姜焼きなど、簡単に作れる日本のメニューを探していた。しかし一方で、タイ料理のメニューは、素材が高く、タイでの価格のほぼ倍を払わなければならないという状況に自分の心の折り合いが付いていなかったため、疎遠になってしまっていた。このため、タイ料理は食べずに我慢し、タイに帰省したときに食べることにしていた。しかしながら、このやり方は、永続的な解決方法とは言えなかった。野菜を自分で植えて育てようにも、非常に低い自身の栽培能力や小さくて狭い部屋の中の場所で、空気や日光等の条件も良くない中で、暑い国の野菜を育てるのは至難の業だった。このため、自分で栽培するというプランは採用せず、この土地の素材を選んで買うという方法が最も良いと判断したのだった。


その後今から3、4年前に「パクチーフィーバー」なる社会現象が日本で起こり、これが私にとって追い風となった。これがきっかけで、タイ料理も大いに人気が出て、日本の農家がパクチーを植えるようになった。一般のスーパーでもパクチーが簡単に手に入るようになり、価格も8年前ほど高くはなく、リーズナブルなものになった。また、パクチーフィーバーにより、パクチーフレーバーチョコ、パクチーキャンディーといったパクチー味の様々な製品が販売されるようになったが、これらの製品はもちろん、私が生まれて初めて見るようなものばかりだった。パクチー好きはどんなものでもパクチー味にしたい、一方でパクチー嫌いは臭いを嗅いだだけで臭くて気分が悪くなるという、二極的なものだった。


パクチーフィーバーという社会現象によって、ガパオライスやトムヤムクンといったタイ料理の評判も上がり、日本のレストランのメニューに採用されるほどにもなった。味の方は、本家本元に全く忠実とは言えないまでも、ひどく悪い味というのでもなかった。日本人の友人からは、ガパオライスに用いるホーリーバジルに代わって、スイートバジルを使うと良いとアドバイスしてくれた。スイートバジルは入手しやすく、価格もそれほど高くないためだ。実際、日本にもタイの青果類を取り扱う店はあるが、私のように自宅が遠い者にとっては毎日それらを買いに行くことは物理的に不可能で、輸入したものである以上、価格もそれほど安いとは言えなかったためだ。交通費をかけて買いに行っても、オンラインで注文しても、やはり価格は高いため、ホーリーバジルの代わりにスイートバジルを代用する等、代用できる野菜を探してはそれで作ってみることにした。これだけでも、タイ料理の食事として食べて幸せを感じることはできたのだ。


ここまで野菜について書いていたら、「ミント」を思い出した。タイ人にとって、ミントと言えば、メイン料理となる「ラープ」を思い出すだろう。しかし日本人にとって思い出されるのは、「スイーツ」や「飲み物」なのだという。日本人の友人は、メイン料理に入っているミントを見たときに驚いたと話してくれた。それも異なる文化によるものだ。日本のスーパーでもミントは入手できるが、タイのように大きな束で売るのではなく、葉っぱの部分のみを摘んで美しく袋に詰めて売られている。


今では、タイ料理に使う青果類を調達するのもさほど難しいことではなくなった。日本国内でも栽培・販売されるようになり、また、タイから輸入されるものもあり、各段に入手しやすくなった。パクチー、空心菜、パパイヤ、レモングラス等のほか、各種調味料に至るまで、以前に比べて非常に買い求めやすくなった。一般的なスーパーマーケットで取扱いのあるもの、そして、タイ、中国、ベトナムといった輸入食材店でも買えるようになった。価格はそれぞれ差はある物の、購入う可能な価格で、タイ帰省の戻りのカバンにあれこれ詰めて引きずって来なくても良くなった。


タイに住んでいた頃、近所の店に頼り切りの食生活で、何を使って味付けしているのか等知る由もなかった私が、今では自炊して食事を摂ることが良くなり、自分で素材を選ぶようになった。それによって、私と夫が毎日口にしている食べ物は、安全な素材によって作られたものだと安心感を得られるようになった。本来は、私のようにふるさとから遠く離れた者だけではなく、誰でも、どこにいても、自炊し食事をするということは、安全・安心を得られるだけでなく、日々の食事を通じて、互いを思いやる心を示すことができるものだと思うのだ。



 

ライター

ウボンティップ・セートサッコー

TKLS埼玉の元気な女の子・ウェブサイト 「日本のことなら何でもお話します」オーナー



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